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誤想過剰防衛(勘違い騎士道事件)

誤想過剰防衛とは急迫不正の侵害がないのに、あるものと誤診して
防衛行為に出て更にその防衛行為が過剰な場合。

事例:勘違い騎士道事件

空手3段のイギリス人Aが
酔っぱらった女Bと男性Cが揉めている場面に遭遇、
女性がしりもちをついて”Help me”と叫んだため、Aが仲裁に入る
その際Cが防御の構えをとったのを見てAはファイティングポーズであると
誤診し、空手技の回し蹴りを食らわせCを頭がい骨骨折により死亡させた。

 

Aの罪責について検討(二分説)
①過剰性について認識がある場合、故意犯が成立
②過剰性について認識がない場合、事実の錯誤となり、
故意を阻却し、故意犯は成立しない。(過失犯は成立しうる)

 

今回の事例では防衛手段として相当性を逸脱していることは明らかで
反対動機の形成は可能と判断され、故意犯が成立
しかし36条2項「防衛の程度を超えた行為は、情状により、
その刑を減軽し、又は免除することができる。」を適用して
Aの刑は減刑できるかどうかを検討すると
緊急状況下において恐怖等により責任が減少する点にあると考えられ、
誤想過剰防衛の場合も、行為者の主観面においては共通性が見られるので、
適用できると判断する。

 

判例 最決昭和62年3月26日 勘違い騎士道事件
「空手三段の腕前を有する被告人は、・・・酩酊したAとこれをなだめていたBとが揉み合ううちAが・・・尻もちをついたのを目撃して、BがAに暴行を加えているものと誤解し、Aを助けるべく両者の間に割つて入つた上、Aを助け起こそうとし、次いでBの方を振り向き両手を差し出して同人の方に近づいたところ、同人がこれを見て防御するため手を握つて胸の前辺りにあげたのをボクシングのファイティングポーズのような姿勢をとり自分に殴りかかつてくるものと誤信し、自己及びAの身体を防衛しようと考え、とつさにBの顔面付近に当てるべく空手技である回し蹴りをして、左足を同人の右顔面付近に当て、同人を路上に転倒させて頭蓋骨骨折等の傷害を負わせ、八日後に右傷害による脳硬膜外出血及び脳挫滅により死亡させた」
「右事実関係のもとにおいて、本件回し蹴り行為は、被告人が誤信したBによる急迫不正の侵害に対する防衛手段として相当性を逸脱していることが明らかであるとし、被告人の所為について傷害致死罪が成立し、いわゆる誤想過剰防衛に当たるとして刑法三六条二項により刑を減軽した原判断は、正当である」

法律を知らなかったら罰せられない?(故意) 刑法38条3項

事件例:東京地判平成14年10月30日
被告人はレーザー脱毛器の輸入販売業者から脱毛用機器の使用は
医師法に反しないと説明を受け、この機器を使用して継続的な営業を行い、
医師法違反で起訴されたが
「輸入元からは医師法に反しないと説明を受け犯罪を犯す意思はなかった」
と主張。

この主張が刑法第三十八条の「罪を犯す意思がない行為は罰しない」
という規定に当てはまり、当該被告人は無罪になり得るのか?

 

裁判例 東京地判平成14年10月30日
「πウェーブ」による脱毛も、そのレーザー照射により・・・火傷等の皮膚障害が発生する危険性を有し、・・・医学の専門知識及び技能がなければ、保健衛生上人体に危害を及ぼすおそれがあると認められるから、医行為に該当すると解されるところ、・・・被告人らにおいても、「πウェーブ」によるレーザー脱毛が医行為に該当することを基礎付ける事実自体の認識は、あったものと認められる。」
「被告人らに対し医師法に違反しない旨説明したという「πウェーブ」の輸入販売元側の担当者は単なる私人にすぎず、被告人らは厚生省等の関係機関に問い合わせをしなかったこと、当時、既に、厚生省がレーザー脱毛は医療行為に当たるとの見解を都道府県等に通知した旨の新聞報道がなされていたことなどからすれば、少なくとも、被告人らにおいて、違法性の意識を欠いていたことについて相当な理由があったということはできない。・・・したがって、被告人らが違法性の意識を欠いていたからといって、故意が阻却されることはない」

 

つまり「適法」だと信じていても「違法」である事を調べればわかるというレベルであれば
「罪を犯す意思がない行為は罰しない」という規定には合致しないと考えられ
被告人の故意は阻却されなかった。(知らなかったは基本通用しないと考えられる)

 

反対説

「違法性の意識不要説」(違法性の意識もその可能性も不要と解する説)
「制限故意説」(違法性の意識は不要だがその可能性は必要と解する説)
「厳格故意説」(違法性の意識が必要と解する説)等がある。

 

刑法38条3項
法律を知らなかったとしても、そのことによって、
罪を犯す意思がなかったとすることはできない。
ただし、情状により、その刑を減軽することができる。

 

事例まとめ

■法律の存在を知らないで、自己の行為が法律上許されていると誤信するケース
一般的に法律は公布により一般人の知りうるところとなっているから、
違法性の意識は誰にでもあると判断される。

法律の解釈を誤り、自己の行為が適法であると誤信する場合
誤った解釈をした経緯で違法性の意識の可能性の有無が判断。

■判決を信頼した場合
自己の行為と同一の事件についての判決を信頼した場合、
違法性の意識の可能性は無かったといえるが
最決H8.11.18では処罰できると判断

■公的見解を信頼した場合
官公庁等職員の判断に従った場合、
違法性の意識の可能性は無かったといえる

■私人の見解を信頼した場合
弁護士、学者の意見に従っても
違法性の意識の可能性が無かったとはいえない。

■私人の見解の例外
映画倫理委員会の審査を通過したために、
わいせつ物に当たらない適法な表現と
誤信した場合は「相当の理由」があるとされた裁判例がある。

 

 

心神喪失者と心神耗弱者の違い

39条(心神喪失及び心神耗弱)
1項 心神喪失者の行為は、罰しない。
2項 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。

 

心神喪失
精神の障害により、事物の理非善悪を弁識する能力無く、またはこの弁識に従って行動する能力が無い状態
心神耗弱
精神の障害により、事物の理非善悪を弁識する能力、またはこの弁識に従って行動する能力が著しく減退した状態

被害者の同意


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