心神喪失者の行為(刑法39条)

事例1

Aは飲酒が原因で心神喪失の状態で強盗未遂事件を起こした
有罪判決時に禁酒を命じられていたがそれでも酒をやめず
再度心神喪失状態に陥った状態で暴力行為を起こした
Aの行為は心神喪失状態で行われたと判断はされるのか?

 

ポイントは以下の3点

1.自ら招いた心神喪失状態において責任があるかどうか
⇒一定の場合には責任を負う

2.「行為と責任の同時存在の原則」に触れるか
⇒お酒を飲むという行為がその後の行為を予見するので
行為全体に対して責任を負う

3.故意(認識・認容)が認められる範囲は?
⇒暴力癖は認識していても飲酒時に強盗の認容まで認定できない。

 

 裁判例 大阪地判昭和51年3月4日
事例2と類似の事案において、
「そこで、いわゆる原因において自由な行為の成否が考慮されなければならない。
・・・当裁判所は、行為者が責任能力のある状態のもとで
・・・精神障害に基づく責任無能力ないし減低責任能力
・・・状態において犯罪の実行をするかもしれないことを認識予見しながら
あえて原因設定行為に出

・・・罪となるべき事実を惹起させることをいうと解する」
として、示兇器暴行脅迫罪(暴力行為等処罰法1条)を認定

 

犯罪の実行をするかもしれないことを認識予見しながらあえて原因設定行為を
行ったところから、示兇器暴行脅迫罪となった。

 

事例2

夫が妻に対し口論がきっかけで暴行に及ぶ
その後夫が、飲酒をした後心身耗弱となり更なる暴行に及び妻を殺害させた
夫の行為は心神耗弱の状態にあったとして刑の減刑はあるのか?

 

ポイント
実行行為の途中で酒を飲み責任能力が減退しているので
殺害行為に関しては心神耗弱の状態にあったと認定されるのか?
⇒責任能力のあった状態と減退した状態の両方でも一貫した行為があるため
夫は行為全体に対し責任を負う

 

裁判例 長崎地判平成4年1月14日
事例3と類似の事案において
「本件は、同一の機会に同一の意思の発動にでたもので、実行行為は継続的あるいは断続的に行われたものであるところ」、「犯行を開始した後に更に自ら飲酒を継続したために、その実行行為の途中において複雑酩酊となり心神耗弱の状態に陥ったにすぎないものであるから」「その刑を必要的に減軽すべき実質的根拠があるとは言いがたい。そうすると、刑法39条2項を適用すべきではない」としました。

 

 

間接正犯についてまとめ

他者を利用して犯罪を犯した場合
被利用者に反対動機の形成可能性がなければ、利用者の行為が実行行為といえる。

 

判例 最決昭和58年9月21日
「被告人は、当時一二歳の養女Aを連れて四国八十八ケ所札所等を巡礼中、日頃被告人の言動に逆らう素振りを見せる都度顔面にタバコの火を押しつけたりドライバーで顔をこすつたりするなどの暴行を加えて自己の意のままに従わせていた同女に対し、本件各窃盗を命じてこれを行わせたというのであり、これによれば、被告人が、自己の日頃の言動に畏怖し意思を抑圧されている同女を利用して右各窃盗を行つたと認められるのであるから、たとえ所論のように同女が是非善悪の判断能力を有する者であつたとしても、被告人については本件各窃盗の間接正犯が成立する
Q.
情を知らない他人Aを利用するXの行為はいかなる罪責を負うか。

A.
被利用者Aに反対動機の形成可能性がない場合は、道具として定義され
行為者Xの行為は実行行為であるといえる。

Q.
Aは善悪の区別がつく年齢でもあり、窃盗に関する「道具」とは言えないのではないか。

A.
本件Aは日ごろからXの言動に畏怖し、意思を抑圧されていたから、
反対動機の形成可能性がないと言え、道具といえる。

 

今回の事例は反対動機の形成可能性が無いによりAは道具であると定義されるので
Xは間接正犯として扱われる事になる。

 

 

その他間接正犯 ※通説

1.人の入った着ぐるみに発砲するよう命じて殺害させた場合
狙撃者は中に人がいる事を認識できない場合は
反対動機が形成不可能で間接正犯が成立すると考えられる

2.部下に偽造文書を作らせた場合、部下は機械的に上司のいう事を聞いて作業を
行うだけの者なので上司に間接正犯が成立すると考えられる(部下は幇助犯)

3.XがYを指示してaを襲わせ、aが正当防衛でYに反撃した場合
正当防衛行為は反対動機が形成不可能であるのでXに間接正犯が成立し得る

観念的競合と牽連犯と併合罪の違い

54条1項(一個の行為が二個以上の罪名に触れる場合等の処理)

 

観念的競合
2つの罪がある時点で同時に発生するイメージ
例:警察を殴れば暴行罪と公務執行妨害の両方が同時発生

牽連犯
時間差で複数の罪が一つに集約して発生するイメージ
例:公文書を偽造し、詐欺を行えば時間差はあるが複数の罪に該当する

併合罪
複数の罪に該当するが上記2点に当てはまらない場合
例:無差別連続殺人
同時に複数人を殺害するわけではないので観念的競合には該当せず
一人目と二人のの殺害に直接関連が無いので牽連犯にもならない。

それぞれその最も重い刑により処断する。

共犯

60条(共同正犯)
二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。

61条1項(教唆)
人を教唆して犯罪を実行させた者には、正犯の刑を科する。

62条1項(幇助)
正犯を幇助した者は、従犯とする。

未遂犯

43条(未遂減免)
犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。
→本文で障害未遂を、ただし書きで中止未遂を定めています。

44条(未遂罪)
未遂を罰する場合は、各本条で定める。

責任

38条1項(故意)
罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。

39条(心神喪失及び心神耗弱)
1項 心神喪失者の行為は、罰しない。
2項 心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。

41条(責任年齢)
十四歳に満たない者の行為は、罰しない。