Archives for 6月 2018

方法の錯誤

方法の錯誤

行為者のとった行為が、当初の目的とは異なる客体に作用して結果を生じた場合
(ナッパが悟飯を攻撃したがピッコロに当たった)

※ドラゴンボールより引用

 

 

判例 最判昭和53年7月28日
Xは、ゲリラ闘争のため警察官から拳銃を奪うことを企て、警ら中の警察官Aの背後1mから改造びょう打ち銃を1発発射した。当該びょうはAの右胸を貫通し、さらに前方30mにいた通行人Bの腹部も貫通し、それぞれ傷害を負わせた。そこで、Bに対しても殺人未遂罪が成立するか争われた事件
「犯罪の故意があるとするには、罪となるべき事実の認識を必要とするものであるが、・・・両者が法定の範囲内において一致することをもつて足りるものと解すべきである」とし、Bに対する殺人未遂罪も成立するとしました。

ピッコロに対する殺人罪が成立するというイメージで覚えてみる

具体的事実の錯誤(客体の錯誤、方法の錯誤)

 

客体の錯誤
行為者が意図した客体とは別個の客体について、
意図した客体だと誤信して侵害した場合例:Aを殺そうとしたがBだった

方法の錯誤
行為者のとった行為が、
当初の目的とは異なる客体に作用して結果を生じた場合、例:Aに発砲したがBに当たった

 

 

Xは、ゲリラ闘争のため警察官から拳銃を奪うことを企て、
警ら中の警察官Aの背後1mから改造びょう打ち銃を1発発射した。
当該びょうはAの右胸を貫通し、
さらに前方30mにいた通行人Bの腹部も貫通し、それぞれ傷害を負わせた。
そこで、Bに対しても殺人未遂罪が成立するか争われた事件

判例 最判昭和53年7月28日
「犯罪の故意があるとするには、罪となるべき事実の認識を必要とするものであるが、
・・・両者が法定の範囲内において一致することをもつて足りるものと解すべきである」とし、
Bに対する殺人未遂罪も成立するとしました。

概括的故意,択一的故意,未必の故意

 

概括的故意
群衆に対し拳銃乱射など犯罪の客体個数が不確定な場合
択一的故意
会席に準備された食事の一つに毒薬を混入など誰に結果が発生するかが不確定な場合
未必の故意
冬場の山奥に人を放置すれば死ぬかもしれないがそれを認識していても無視した心理状態

 

 

Xは「日本への持ち込みが禁止されている化粧品」を運搬するよう依頼され、
粉末状の薬品を飛行機の中では腹巻の中に隠すよう指示され実行。
しかし、その粉末状の薬品は実際には覚せい剤であった。

Xは覚せい剤を運搬しているという認識が無かったので
覚せい剤の密輸を故意に行ったわけではないので覚せい剤取締法には反しない
と反論したケースの判例

 

判例 最決平成2年2月9日
「覚せい剤を含む身体に有害で違法な薬物類であるとの認識があったというのであるから、覚せい剤かもしれないし、その他の身体に有害で違法な薬物かもしれないとの認識はあったことに帰することになる。そうすると、覚せい剤輸入罪、同所持罪の故意に欠けるところはない」としました。

仮定的因果経過と択一的競合

仮定的因果経過

その行為がなかったとしても、同じ時・同じ場所で同じ結果が発生していたとみられる場合。

例:AがBを殺害しようとしてCが代わりにAを殺害
Cが殺害しなくてもどうせAに殺されていたからCは無罪とするのは不当

このような「仮定的因果経過」を付け加えることは許されない(通説)

 

択一的競合

その行為単独でも結果が発生したであろう行為を、2人以上の者が同時に行った場合。

例:AがBに毒薬の入った食事を与えたがCもその食事に毒を盛っていた
Cが毒を盛らなくてもBはAの毒で死んでいたとしてCを無罪とするのは不当
 

条件関係と相当因果関係

条件関係と相当因果関係について

 

例:AがBを包丁で刺し、重傷を負わせる
Bが病院に行き、治療を受けるが医師CがBを毒殺した。

 

条件関係とは「あれなければこれなし」という関係
⇒Aが刺さなければそもそもBは病院に行かない

相当因果関係
条件関係が存在することを前提に、その行為からその結果が発生することが
社会通念上相当(一般的、通常)と認められること
⇒直接の死亡原因は医師による毒殺

心神喪失者の行為(刑法39条)

事例1

Aは飲酒が原因で心神喪失の状態で強盗未遂事件を起こした
有罪判決時に禁酒を命じられていたがそれでも酒をやめず
再度心神喪失状態に陥った状態で暴力行為を起こした
Aの行為は心神喪失状態で行われたと判断はされるのか?

 

ポイントは以下の3点

1.自ら招いた心神喪失状態において責任があるかどうか
⇒一定の場合には責任を負う

2.「行為と責任の同時存在の原則」に触れるか
⇒お酒を飲むという行為がその後の行為を予見するので
行為全体に対して責任を負う

3.故意(認識・認容)が認められる範囲は?
⇒暴力癖は認識していても飲酒時に強盗の認容まで認定できない。

 

 裁判例 大阪地判昭和51年3月4日
事例2と類似の事案において、
「そこで、いわゆる原因において自由な行為の成否が考慮されなければならない。
・・・当裁判所は、行為者が責任能力のある状態のもとで
・・・精神障害に基づく責任無能力ないし減低責任能力
・・・状態において犯罪の実行をするかもしれないことを認識予見しながら
あえて原因設定行為に出

・・・罪となるべき事実を惹起させることをいうと解する」
として、示兇器暴行脅迫罪(暴力行為等処罰法1条)を認定

 

犯罪の実行をするかもしれないことを認識予見しながらあえて原因設定行為を
行ったところから、示兇器暴行脅迫罪となった。

 

事例2

夫が妻に対し口論がきっかけで暴行に及ぶ
その後夫が、飲酒をした後心身耗弱となり更なる暴行に及び妻を殺害させた
夫の行為は心神耗弱の状態にあったとして刑の減刑はあるのか?

 

ポイント
実行行為の途中で酒を飲み責任能力が減退しているので
殺害行為に関しては心神耗弱の状態にあったと認定されるのか?
⇒責任能力のあった状態と減退した状態の両方でも一貫した行為があるため
夫は行為全体に対し責任を負う

 

裁判例 長崎地判平成4年1月14日
事例3と類似の事案において
「本件は、同一の機会に同一の意思の発動にでたもので、実行行為は継続的あるいは断続的に行われたものであるところ」、「犯行を開始した後に更に自ら飲酒を継続したために、その実行行為の途中において複雑酩酊となり心神耗弱の状態に陥ったにすぎないものであるから」「その刑を必要的に減軽すべき実質的根拠があるとは言いがたい。そうすると、刑法39条2項を適用すべきではない」としました。